夏の頭皮のベタつき、汗や皮脂が原因?毛髪科学から紐解く頭皮トラブルと皮脂代謝のメカニズム【連載第2回】夏の髪と頭皮のお手入れ

こんにちは。おもろまちヘア美容Clinicの院長です。

台風9号の接近で心配された週末でしたが、ようやく今日、沖縄県内の暴風警報がすべて解除されましたね。

静かな青空が戻ってきたことに、私自身もほっとしています。

台風が過ぎたあとは、ぐっと蒸し暑さが増す時期でもありますよね。

「夏のヘア対策シリーズ」全4回のうち、前回は紫外線による髪や頭皮への影響についてお話ししました。

第2回となる今回のテーマは、「夏の頭皮のベタつきと汗・皮脂トラブル」です。

「毎日しっかり髪を洗っているのに、夕方になると頭皮がベタついてニオイが気になる」「頭から汗がびっしょり出るようになったけれど、これって抜け毛が増える原因になるの?」

そんなお悩みを抱える方が、この季節は増えてきます。

今回は、単なる洗い方のコツではなく、毛髪科学・皮膚科学の知見をもとに、夏の頭皮トラブルの本当の原因や、皮脂の代謝のしくみについて、じっくりお話ししたいと思います。

夏の頭皮がベタつく本当の原因とは?

「たくさん汗をかくと、汗そのものが毛根にダメージを与えて、抜け毛が増えるのではないか」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、毛髪科学の視点からは、汗を多くかくこと自体が毛根や毛乳頭に直接悪い影響を与え、脱毛症につながるということはないと考えられています。

問題になっているのは、汗そのものではなく、「過剰に分泌された皮脂の化学変化」と「微生物(常在菌)の繁殖」だと考えられています。

なぜ頭皮はこれほどベタつくのか(頭皮と脂腺の密度)

私たちの頭皮は、体の他の部分の皮膚と比べて、毛包(毛穴)が非常に密集しており、それに伴って脂腺(皮脂腺)の数も多いという特徴があります。

頭部には平均して約10万〜12万本の毛髪があり、それぞれの毛包の上部に脂腺が開口しています。

頭皮は、体の中でも皮脂腺がもっとも多く集まっている部位のひとつだと言われています。

分泌されたばかりの新鮮な皮脂は本来ほとんど無臭で、汗腺から出た汗と混ざり合うことで、頭皮の表面に「皮脂膜(皮表膜)」という天然の保護膜をつくります。

この皮脂膜は、角質層からの水分の蒸発を防ぎながら、外部からの刺激をやわらげるバリアのような役割を担っていると考えられています(皮脂膜については、以前の「洗髪習慣」のコラムでも少し触れました)。

ただ、夏の高温多湿な環境では、脂腺の働きが一気に活発になり、皮脂の分泌量が大きく増えます。

増えすぎた皮脂が毛穴や頭皮の表面にとどまり、蓄積することで、ベタつきや毛穴のつまりにつながりやすくなります。

かゆみ・ニオイ・脂性フケが起こるまでの3つの変化

古い皮脂や汗が頭皮に残ったままになると、頭皮の上では次のような変化が段階的に進んでいくと考えられています。

①常在菌が皮脂を分解し、刺激の強い「遊離脂肪酸」に変わる

頭皮には、マラセチア真菌や表皮ブドウ球菌といった皮膚常在菌が、もともと生息しています。

皮脂(主にトリグリセリド)が過剰に供給されると、これらの常在菌が酵素(リパーゼ)を出して皮脂を分解し、代謝していきます。

このときに生まれるのが「遊離脂肪酸」です。

遊離脂肪酸は皮膚への刺激性が強く、頭皮の表皮細胞や角質層のバリアを刺激して、かゆみや炎症、赤みの原因になることがあります。

②紫外線が皮脂を「過酸化脂質」に変え、頭皮のニオイにつながる

頭皮にたまった皮脂が強い紫外線を浴びると、酸化反応を起こして「過酸化脂質」へと変化します。

常在菌の分解でできた遊離脂肪酸と、紫外線によってできた過酸化脂質が混ざり合うことで、頭皮特有の酸っぱいようなニオイ(頭皮臭)が発生しやすくなると言われています。

③表皮の生まれ変わりが早まり、「脂性フケ」ができる

遊離脂肪酸や過酸化脂質による刺激が続くと、頭皮の防衛反応として、表皮細胞の生まれ変わりのサイクル(ターンオーバー:通常は約45日程度と言われています)が早まることがあります。

ターンオーバーが早まりすぎると、本来しっかり角化するはずの細胞が未成熟なまま、大きな塊となって剥がれ落ちてしまいます。

これが、黄色みを帯びたベタっとした「脂性フケ」の正体だと考えられています。

こうした皮脂の増加や脂性フケの背景には、男性ホルモン(アンドロゲン)の働きや、脂質の代謝に関わるビタミンB1・B2の不足なども関係していると言われています。

「汗をかくと抜け毛が増える」は本当?

「夏に汗をかいたあと、手ぐしを通すと髪が抜けやすい」「汗が毛穴をふさいで、毛根が弱ってしまう」

そんな話を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これは毛髪生理学的には誤解だと考えられています。

皮膚の汗腺(エクリン腺)と、毛が生えている毛包は、構造的に別のものです。

汗腺から出る汗は99%以上が水分で、微量の塩分などを含む、体温を調整するための生理的な分泌物です。

汗が毛包の内部に入り込んで毛母細胞を傷つけたり、毛根の働きを止めてしまったりするようなことはないと考えられています。

汗をかいたあとに見られる抜け毛の多くは、汗の水分や体温で髪同士が密着し、手ぐしや衣類との摩擦によって、もともとヘアサイクルを終えて抜け落ちる準備ができていた髪が、表面に出てきただけだと考えられています。

進行性の薄毛(AGA・FAGA)の本当の原因

男性に見られる進行性の薄毛(男性型脱毛症・AGA)や、女性の薄毛(女性型脱毛症・FAGA)は、汗や表面的な皮脂の汚れが原因で起こるものではないと考えられています。

AGAでは、血液中から毛乳頭細胞に取り込まれた男性ホルモン(テストステロン)が、毛乳頭内にある還元酵素「5α-リダクターゼ(Ⅱ型)」の働きによって、より強力な「5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)」に変化します。

この5α-DHTが、毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)と結びつくと、細胞核にシグナルが伝わり、増殖を抑える因子(TGF-β1など)が放出されます。

その結果、毛母細胞のブドウ糖代謝やATP(エネルギー)の産生、タンパク質の合成が妨げられ、本来2〜6年程度あるはずの髪の成長期が、数か月〜1年程度にまで短くなってしまうと考えられています。

毛包が十分に育たないまま細く小さくなり(軟毛化)、細く短い休止期の毛として抜けていくのが、AGAの根本的な仕組みだとされています。

このように、汗や表面の皮脂はあくまで頭皮表面の環境の一つであり、毛包の深いところで起きている遺伝的・ホルモン的な変化とは、分けて考えることが大切です。

汗でびっしょり濡れた髪、「薄毛が目立つ」ように見えるのはなぜ?

汗をたくさんかいて髪が頭皮に張りついてしまうと、地肌が透けて見えやすくなり、「急に薄毛が目立つようになった気がする」と不安になる方もいらっしゃいます。

これは、髪が濡れて頭皮に密着することで一時的に地肌が見えやすくなっているだけの場合もありますので、乾いた状態の見た目と比べてみるのも一つの目安になります。

毎日の生活でできる、頭皮の汗・蒸れ対策

「頭から汗がとにかく止まらない」「髪の毛が汗でびっしょりになって困る」というお悩みは、男性だけでなく女性の患者様からもよくお聞きします。

すぐに始められる工夫として、次のようなものがあります。

  • 汗をかいたら、頭皮までしっかり乾かす、またはタオルで優しく押さえて拭き取る
  • 髪をまとめたり通気性の良い帽子を選んだりして、頭皮が蒸れたままにならないようにする
  • 頭皮の汗を抑えたいときは、頭皮用の制汗スプレーやミストを外出前や汗をかいたあとに取り入れる
  • 頭皮のかゆみやベタつきが続くときは、洗浄力が強すぎないシャンプーを選ぶ

これらはあくまで日常でできる工夫です。

汗の量そのものが気になる、日常生活に支障が出るほど頭皮からの汗が多いと感じる場合には、多汗症のような体質的な要因が関係していることもあると言われています。

気になるほど汗が止まらないときは、皮膚科でボトックス注射による治療が選択肢の一つとなることもあります。

「シャンプーをすると抜け毛が増える」は本当?

「シャンプーをすると抜け毛が増える気がする」と感じたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これも医学的には誤解だと考えられています。

健康な頭皮であっても、髪にはヘアサイクル(成長期・退行期・休止期)があり、日本人の平均で1日に約60〜100本(平均80本前後)の髪が自然に抜け落ちる(自然脱落毛)と言われています。

自然に抜け落ちる髪の毛根は、メラニンの供給が止まり、毛球部が棍棒のような形に縮んだ「棍棒毛(休止期毛)」という状態になっています。

洗髪のときに指に絡まる抜け毛の多くは、この休止期を迎えて抜け落ちる運命にあった棍棒毛が、洗髪時の水流や摩擦によって流れ出てきたものだと考えられています。

適切なシャンプー剤を正しく使うことで、健康な毛母細胞が壊れて抜け毛が増えるということはないとされています。

「お湯だけの湯シャンプー」は頭皮に優しい?

「シャンプー剤の洗浄成分は頭皮に負担がかかるから、お湯だけで洗う『湯シャンプー』の方が安心なのでは」という声を耳にすることもあります。

しかし、毛髪科学・皮膚科学の観点からは、いくつかのリスクが指摘されています。

お湯(38〜40℃程度)だけで髪を洗うと、汗や一部の水に溶けやすい汚れは流せても、粘度の高い皮脂や、酸化して固まった過酸化脂質、遊離脂肪酸までは十分に落としきれないことが多いと考えられています。

ここで大切な役割を果たしているのが、シャンプーに含まれる界面活性剤です。

界面活性剤の分子は、水になじみやすい「親水基」と、油になじみやすい「親油基」を、ひとつの分子の中に両方持っています。

頭皮にシャンプー剤をつけると、親油基が皮脂や余分な油分を包み込み、球状のかたまり(ミセル)を作ります。

このミセルが水の中に広がる(乳化する)ことで、水だけでは落ちにくい皮脂汚れが頭皮から浮き上がり、洗い流されやすくなると考えられています。

湯シャンプーを続けると、頭皮に残った皮脂が常在菌のエサとなり、菌が増えすぎてしまうことがあります。

その結果、遊離脂肪酸が多く作られ、脂漏性皮膚炎や慢性的な湿疹につながることもあると言われています。

また、頭皮のバリア機能が低下して常在菌のバランスが崩れると、普段は害のない菌によるトラブル(日和見感染)や、毛包炎などの皮膚トラブルが起こりやすくなる可能性も指摘されています。

頭皮の「弱酸性バリア」を守るシャンプー選び

健やかな頭皮の表面は、適度な皮脂膜と角質層によって、pH4.5〜5.5程度の弱酸性に保たれていると言われています。

この弱酸性の環境が、アルカリ性を好む雑菌の繁殖を抑える働きをしていると考えられています。

シャンプー剤は、頭皮の弱酸性のバリアや、表皮の細胞間脂質(セラミドなど)をむやみに壊しすぎず、それでいて余分な酸化皮脂だけをきちんと落とせるよう、アニオン界面活性剤や両性界面活性剤などを組み合わせて作られています(この洗浄成分の考え方は、以前の「洗髪習慣」のコラムでも触れています)。

まとめ:汗や皮脂は「悪者」ではなく、正しく知って付き合うもの

夏の頭皮のベタつきやニオイ、一時的な不快感は、「汗をかいたから」「シャンプーのせい」というよりも、体の中でも脂腺が集まりやすい頭皮ならではの仕組みと、過剰な皮脂が常在菌や紫外線によって「遊離脂肪酸」や「過酸化脂質」に変化していく化学的な変化が背景にあると考えられています。

湯シャンプーやシャンプー脱毛説といった根拠のはっきりしない情報に振り回されるのではなく、「皮脂の酸化を防ぎ、頭皮の弱酸性バリアを保ちながら、古い皮脂をきちんとリセットする」という毛髪科学の考え方を知っておくことが、ベタつきのない頭皮で夏を乗り切るための一歩になるのではないでしょうか。

汗の量や頭皮のベタつきが気になる方、「もしかして薄毛も関係している?」と不安になった方は、当院の毛髪診断士による無料カウンセリングで、頭皮の状態を一緒に確認してみませんか。

「まだ治療までは考えていない」という方でも、お気軽にご相談ください。

次回【第3回】は、「冷房で頭皮も乾燥する?『真夏と冷蔵庫』を往復する頭皮のためのバリア保護術」をお届けします。

沖縄の冷房環境ならではの頭皮の乾燥やバリア保護について詳しくお話ししますので、どうぞお楽しみに。

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